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□ 物語り □

『ハイライト』

v2


家に帰ると、一目散に冷蔵庫の扉を開けた。
ガラス容器に入った麦茶をこぼしそうなぐらいガバガバっとコップに注ぐ。
誰が見てようと、何を言われたってかまやしない。
僕は、ごくごく喉が鳴るぐらい一気に飲み干した。
「まあ、洋ちゃん。そんなに慌てて飲むなんて。ほら、口からこぼれているわよ」
キッチンに入ってきた母さんが、呆れたように言った。
僕は、はあ。と息をつき、
「ねえ、聞いて母さんっ。さっき公園で変な人を……」
「もう、いやね。すごい汗かいてるじゃないの。早くシャワー浴びてきなさい。今日は、作文の書き方を練習する日でしょ。学校も夏休みに入ったのに、早くから走りに行かなくたっていいのに。受験はもうすぐなのよ。ぼやぼやしてたら落っこちちゃう」
「あ、あうん。がんばるよ」
「そうよ。走ってばかりいないで、勉強に気合い入れてよね」
母さんは、ぽんと僕の肩を叩くと、お風呂場へ向かった。
「また、勉強勉強。聞き飽きたよ」
ぽつりと言った言葉は、冷蔵庫の中にでも隠しておきたいと思った。

母さんは、このところぴりぴりしている。私立中学に入学させたい母さんは、この夏休みが受験に向けての最後のチャンスと考えているらしく、たくさんの参考書を買いこんできた。
毎日毎日、受験受験と言葉が宙を駆け回る。母さんの頭の中は、それのことしか考えてなく、「僕のため僕のため」とか言って、勉強を押しつける。それは本当に僕のためなんだということは、分かっているつもりなんだけど、最近、うんざりもしていた。
僕は、さっさとシャワーを浴びて、朝ごはんに作ってくれた、フレンチトーストを自分の部屋で食べるからと言って、食卓から拝借した。
部屋にこもってから、本気で勉強する気にもなれず、ベッドに寝転がる。
「今朝の人は、かなり妙だったよなあ」
つい声に出して言ってしまう。夏休みってことで夏のようだけど、まだまだ暑くなってくるのは、八月からで、夏休み初日は、梅雨が明け始めたからっとした朝だ。
それでも、長袖は着ない。今日の紳士は白のカッターシャツに大きな蝶ネクタイ、黒のモーニングとあれば、少し滑稽に見える。
「へんてこなモーニングだったしね」
僕は、少しずつ丘で会った紳士の容姿をかみくだき頭に思いだす。ツバメの翼のようなモーニングスーツは、飛んでいた。
「正装してハトの餌やりだって。変な人」
僕は、可笑しくなってくすくす笑った。ハトが好きかキライかなんて、僕は知らない。
そんなこと何も関係ない。そんなこと聞いてどうするんだろう。僕がもしハトをキライだったらどうするんだろう。あの人、随分ハトに気に入りられているみたいだったから、きっと怒るんだろう。
 僕は少し憂鬱になった。あの人とはもう会わないよな。
そんなふうに願って、そうであると決め込んでいた。

ところがだ。
ところが、僕の予想通りにはいかなかった。次の日も次の日も、おかしなモーニングスーツを着た紳士は、丘の上にいた。ハトに餌をやりながら。僕を見かけると、にっこり笑いかける。
僕は、ろくに挨拶もしないで、紳士の前を通り過ぎ走り抜けた。
おかげで、自由な気持ちになれる丘の頂は、立ち止まるどころか素通りだ。息抜きにならないランニングなんて、これじゃあ、何のために走っているのか分からなくなる。
そして、何日めかのある日。僕は、疲れてしまった。
丘の上に登り立って、足を止めた。
「毎日、ハトに餌やり?」
たまりかねて僕から声をかけた。
「ええ、私の日課ですから」
「でも、下を散歩しているおばさんは、最近ハトが増えて困っている。って、言ってましたよ」
「ははは。そうですか。それは、困りものですね」
「エサ、あげるから此処に集まってくるんじゃ・・・」
「ええ。此処には集まってきますよ。けれど、毎日数が決まっています。私は、五十羽しか呼んでいませんから、それ以上増えることはないのですよ」
「毎日、数を数えているんですか」
「ええ、まあ。今日もちゃんと五十羽いますよ。なんなら、一緒に数えてみませんか」
僕はなんとも奇妙な人だな。と思いながらほんとに五十羽いるのか確かめたくなった。
もし出まかせで言っているのなら、「ほら見たことか」と嘲笑ってやろう。
僕は「いいよ」と言って、ハトの数を数え始めた。
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Date:2010/09/24
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